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Observation concerning little animals observed in rain-, well-, sea- and snow-water.

(1677, Antony van Leeuwenhock)

顕微鏡を発明し、その観察結果をロンドンの王立協会に報告したときの一節である。
掘越 弘毅

極限環境微生物学会名誉会長

独立行政法人
海洋研究開発機構
特任上席研究員

東京工業大学名誉教授
Kent大学名誉博士
東洋大学名誉教授

 微生物が関与したものとしてまず最初に挙げられるものに古くから我々が食べている多くの食品がある。古代エジプトの死者の書の中にビールのことが記述され、旧訳聖書の出エジプト記の中に、エジプトからの脱出が余りにも急でパン種をもって逃げることができなかった、そのためしばらくパンがうまく焼けなかったという記述がある。日本でも味噌、醤油、酒等、多くの発酵食品が我々の文化の形成に役立っている。これらの発酵食品についての記述は全て文学的なものでしかなく、他の分野の科学が古代から進歩しているのと対象的である。
 微生物が地球上に誕生したのは40億年も前であることを考えると、ルイ・パスツールが有名な肉汁を入れたスワン音フラスコの実験を行い、微生物は自然に発生するのではないと証明したのは1800年代の半ばごろの事であった。またアレキサンダー・フレミングが、たまたま実験中に混入した青徽がバクテリアを殺すのを見つけ、そこから最初の抗生物質であるペニシリンの発見をしたのは1928年のことである。ペニシリンの工業的生産は、工業微生物学はもちろんのこと遺伝学、生理学といった面で微生物学を大きく飛躍させた。1977年、初めてウイルスの遺伝子DNAの配列がマクサムとギルバートによって決められた。約40億年の長い歴史を持った生命の暗号の解読もわずかここ十数年ほどの間になされたといっても過言ではない。

 近年、極限環境微生物学が急速に進みつつある。通常の土壌lg中には1千万から10億の微生物を含んでいるが、現在の技術ではわずかに1%から10%ぐらいしかわれわれは分離することができない。少しずつ知識は広がってはいるが、まだまだ地球上には知られないでそのまま放置されている生命が数多くある。これらの未知の生命をどのようにして死滅から守り、保存してつぎの世代に伝えていくかが我々に課せられた使命である。基礎科学は人類にとっての共通語と言ってもよい。私たちは基礎科学という共通語を用いて自然と対話し始めたばかりである。科学は、一枚の白い紙のようなものである。もしピカソがこの紙の上に色をつけたとすると、紙は変じて絵となる。ベートーベンが書けば紙は音楽となる。結論として、私は、微生物学者が微生物と対話する方法を知れば、白い紙の上に新しいバイオテクノロジーを描き発展させるチャンスを手にすることができるだろうと信ずる。目の前を過ぎ去っていく幸運の女神をいち早く見つけ、そしてためらわずに飛び付く。そのためには真の芸術家が持っているような研ぎすまされた感性、そしてとにかくやってみようというチャレンジ精神が不可欠ではなかろうか。
 (学会ニュ−スVol.1 No.1巻頭言より)

極限環境生物学会について
 生命が地球上に誕生して約40億年、この間生物は様々な環境にさらされ、それに適応するように進化して現代にいたっている。現在でも地球上には生命にとって苛酷な極限環境−たとえば、砂漠、火山、温泉源、高濃度の塩湖、深海など−が存在し、こうした環境は生物にとって非常に苛酷な環境と思われる。しかし、このような極限環境にも多様な微生物{好熱菌、低温菌、好塩菌、好酸性菌、好アルカリ性菌、嫌気性菌、好圧菌、好乾燥性菌、放射能耐性菌、溶媒耐性菌、重金属耐性菌、人工化学物質(ダイオキシン、PCB等)分解菌など}が存在することが明らかになってきた。なかでも、極限環境微生物として発見された古細菌(ア−キア)が生命の起源に密接にかかわっている可能性が指摘され、こうした研究が直接的に、生命の誕生と進化の謎に迫るものであると考えられている。そして今日では、極限生命の探索は地殻内生命体に向かい、さらに地球外生命体の存在可能性についての研究につながっている。

 極限環境微生物の研究は、世界に先駆け日本で学問的に体系化されてきた。その結果、基礎的な科学研究から産業的な応用まで多大な貢献をなしてきている。今日の地球環境問題、生命の起源研究、医薬品や有用物質の生産、およびバイオテクノロジーの発展にとって極限環境微生物学はなくてはならない存在であり、21世紀の新たな研究の展開において重要な役割を果たすことが期待される。

 世界を見渡すと、EUでは既に極限微生物プログラムが走っており、アメリカでもNSFが極限環境微生物研究の支援を開始した。また、極限環境微生物に関する国際会議が1998年1月横浜で、また2000年9月にはドイツ、ハンブルグ市、2002年にイタリア、ナポリ市、2004年に米国、ボルチモアにて開催され、そして2006年にフランスで開催と回を重ねている。こうした流れの中、極限環境微生物に関する国際的な学術誌としてSpringer-Verlag Tokyo から"Extremophiles"が出版されている。Extremophiles誌は、発刊初期にimpact factorが3.1を超え、国際一流ジャ−ナルの仲間入りをはたした。そして、ゲノム情報科学、地殻内生命体、地球外生命探査といった、新たな科学技術の進展により極限環境生物学も新たな段階にはいりつつある。

 この様な状況のもと、1999年10月に「極限環境微生物学会」(2010年に「極限環境生物学会」と改名)を設立したことは重要な意味がある。わが国の広い分野の多くの研究者達の参加を得て、多面的な研究対象と多様なアプローチを総合的に議論し、各極限環境生物研究の推進を図っていくのがこの学会の狙いである。

 
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